でも、あの90秒には途方もない量の仕事が詰まっている。作品の世界観を90秒で提示すること。イントロ・Aメロ・サビを1分半に畳み込むこと。原作のテーマを、説明的になりすぎず、しかし確実に歌詞へ忍ばせること。そのうえで、毎週繰り返し聴かされても飽きられないこと。
これほど制約の多い音楽の仕事は、そう多くない。そして制約が多い仕事ほど、作り手の力量がむき出しになる。
アニソンが「少し下」に見られていた時代
昔、アニソンがなぜか少し下に見られていた時代があった。
音楽の話をしているときに、好きな曲としてアニメの主題歌を挙げると、空気がわずかに変わる。あの感じを覚えている人は、たぶん私と同じ世代だ。ジャンルとしての格が一段低いものとして扱われていた。理由は誰も説明できなかったが、そういう空気だけが確かにあった。
私はその時代に、まったく逆のことを思っていた。アニソンにこそ、日本の音楽家の才能が集まっている、と。
作品という他人の世界に、自分の音楽を差し出す。尺は決まっている。求められる機能もはっきりしている。そのうえで自分の刻印を残さなければ、ただのBGMになってしまう。この条件下で成立している曲は、条件が緩い場所で書かれた曲よりも、はるかに高い密度を持っているはずだ。私はずっとそう思っていた。アニソンってすごいんだぜ、なんでもっとみんなリスペクトしないんだ、と。
いまは、才能の戦場になった
その空気は、もう完全に変わった。
いまアニメの主題歌は、日本のトップアーティストが才能を競い合う戦場になっている。バンドも、シンガーソングライターも、ボーカロイド出身の作家も、テクノの作り手も、みんなが同じフィールドで、同じ制約の中で勝負している。アニメの主題歌を担当したことが、キャリアの傷ではなく勲章として語られるようになった。かつて「少し下」に置かれていたものが、いつの間にか音楽シーンの中心に移動している。
その戦場を見ているのが、めちゃくちゃ面白い。
面白さの半分は、やはり制限にある。90秒という尺。作品世界との整合。原作ファンの目。そのすべてを満たしたうえで、その人にしか書けない曲になっているとき、その曲は本当に強い。制限は才能を殺さない。制限は才能を際立たせる。
意外な人が、意外な作品を書いている
もう半分の面白さは、クレジットにある。
たとえば1995年の劇場オムニバス『MEMORIES』。オープニングの「PROLOGUE」とエンディングの「IN YER MEMORY」を手がけているのは、石野卓球だ。電気グルーヴの、あの石野卓球である。作曲も編曲も本人。90年代のアニメーション作品に、テクノの当事者がそのまま入り込んでいる。
2016年の『クラシカロイド』のオープニング「ClassicaLoid ~クラシカロイドのテーマ~」は、布袋寅泰が作詞・作曲・編曲を手がけ、自ら歌っている。BOØWYのギタリストが、クラシックの作曲家たちが現代に蘇るという奇天烈なアニメの顔になっている。
『チェンソーマン』の「KICK BACK」は米津玄師の曲として広く知られているが、編曲のクレジットには米津玄師と並んで常田大希の名前がある。King Gnuの常田大希だ。あの曲の異様な推進力の出どころが、クレジットを一行見るだけで少し分かる。
こういうメタ情報が、私はたまらなく好きだ。誰が書いたのか。誰が編曲したのか。この人はほかにどの作品をやっているのか。それを知った瞬間、さっきまでただの主題歌だった曲が、その人のキャリアの一部として立ち上がってくる。曲の聴こえ方そのものが変わる。
そして、この発見をたくさんの人にしてほしい、とずっと思っていた。
でも、プレイリストを作るのは面倒くさい
問題は、その入口があまりに面倒くさいことだ。
自分の好みに合ったアニソンのプレイリストを作ろうとすると、まず曲を思い出さなければならない。思い出したら検索する。1曲ずつ追加する。似た曲を探す。また検索する。すごい時間がかかる。私自身、何度もやりかけては途中でやめてきた。
だから、そこをAIにやらせることにした。
Anisongsのアプリは、AIを内蔵していない。代わりに、あなたがいつも使っているAI(ClaudeやChatGPT)に、Anisongsのデータベースを道具として渡す。あなたのAIは、あなたの好みをもう知っている。そこに1950年代から現在までのアニソンのデータが接続されれば、プレイリストは会話一往復で出てくる。
お題を出すだけでもいい。「夜に走るときに聴きたいアニソン」「90年代のロボットアニメの主題歌だけ」「作詞家に注目したセットリスト」。抽象的なお題でも、AIは意味を汲んで曲を並べてくれる。自分で作るのとは、かかる時間の桁が違う。
作ったら、いつもの音楽アプリへ持っていく
作ったプレイリストは、聴かなければ意味がない。
AIが返してくるリンクをタップしてアプリで開くと、YouTube MusicとApple Musicへはワンタップでまるごと書き出せる。Spotify、Amazon Music、LINE MUSICへは、曲ごとの検索リンクから追加する形になる。ここは正直に書いておくと、まだ一部手動だ。一括で入れられるかどうかは、音楽サービス側が外部からの書き込みをどこまで開放しているかに左右される。対応できる範囲は、これから広げていきたいと思っている。
いずれにせよ、行き先はあなたが普段使っている音楽アプリでいい。Anisongsの中で聴かせるつもりはない。
知らない曲が入っていていい
AIが作ったリストには、たぶんあなたの知らない曲が混ざる。それでいい。というより、それが目的だ。
知らない曲が流れているとき、アプリのプレイリストを開いておいてほしい。曲名の下に、その曲が何の作品のオープニングなのか、エンディングなのか、何年の曲なのかが出ている。曲を左にスワイプすれば、歌っているアーティストの解説と、その作品の解説が現れる。もっと知りたければ、そこからAnisongsのページに飛べる。
「この曲、あの作品のOPだったのか」がその場で分かる。冒頭に書いた発見が、聴きながら起きる。
そして、いま聴いている曲を誰かに教えたくなったら、🎧 Now! を押してほしい。曲名と作品名の付いたシェアが飛んでいく。いい曲を見つけた瞬間の温度は、その日のうちにしか共有できない。
アプリのことは、こちらにまとめてある。 https://anisongs.jp/app
だから、飛ばさないでほしい
私がこのアプリを作ったのは、収益のためでも、技術的な面白さのためでもない。
アニソンにこそ日本の音楽家の才能が集まっている、といまだに思っているからだ。そしてその才能は、90秒に畳み込まれているせいで、いちばん飛ばされやすい場所に置かれている。もったいない、では済まない。
配信でアニメを観るとき、オープニングとエンディングを飛ばす人は多いと思う。でもあそこには、制限と格闘した誰かの仕事が必ず入っている。意外な人が、意外な作品のために、意外な曲を書いている。
だから、ぜひ毎回聴いてほしい。飛ばさないでほしい。
そのきっかけになるものを作りたかった。それがこのアプリの、いちばん正直な理由だ。