フジテレビ"ノイタミナ"で放送されていたアニメ『BANANA FISH』のエンディングに、聴いたことのない曲が流れた。「Prayer X」。常田大希は自身のXで「バンド初のタイアップ書き下ろし曲という事で、漫画原作をしっかり読んで詞曲を書き上げました」( https://x.com/DaikiTsuneta/status/1027866422238572546 )と投稿している。ボーカルの井口理もこう語った。「幼い頃、兄弟の部屋の本棚に並んでいた『BANANA FISH』を当時夢中になって読んでいました。『Prayer X』は誰しもが持つ葛藤と祈りの歌なんだと僕は思います」(Wikipedia)。
原作を読み込み、作品の感情に寄り添って曲を書く。初めてのアニメタイアップにおいて、King Gnuは誠実に作品と向き合った。
ここから8年。King Gnuはアニメと6度の邂逅を重ねることになる。そしてその過程で、常田大希のアニメとの向き合い方は明確に変化していく。
6つの邂逅
King Gnuのアニメタイアップを時系列で並べてみる。
2018年、BANANA FISH ED「Prayer X」。2021年、王様ランキング OP「BOY」。同年、劇場版 呪術廻戦 0 主題歌「一途」とED「逆夢」。2023年、呪術廻戦 第2期 渋谷事変 OP「SPECIALZ」。2025年、劇場版 名探偵コナン 隻眼の残像 主題歌「TWILIGHT!!!」。そして2026年、呪術廻戦 第3期 死滅回游 前編 OP「AIZO」。
呪術廻戦だけで4曲。同じアニメ作品にこれだけ繰り返し主題歌を提供するバンドは極めて稀だ。しかし、ここで重要なのは回数ではない。常田大希がこの8年間で到達した、アニメとの「距離感」の思想だ。
「アニメの歌を歌いたくない」
2025年、劇場版コナンの主題歌「TWILIGHT!!!」に際してのBillboard JAPANのインタビュー( https://www.billboard-japan.com/special/detail/4824 )で、常田大希はこう語っている。
アニメのために書き下ろすってときに、アニメの中の歌をうたうって感じは、あまり個人的にはしっくりきてなくて。ライブとかでやったときに『一体誰の歌をうたってるの?』みたいな、俺の中では違和感があるというか。あくまで俺たちの歌じゃないといけないし、King Gnuとしての歌じゃないといけないっていうのが強くあるので
キャラの誰かに当て書きするっていうより、作品を観たうえで感じるインスピレーションはありつつ、結局のところ重要なのは良い感じの"距離感"なのかな。『SPECIALZ』あたりから、そういうのを意識して作っています
この発言は極めて示唆的だ。2018年のPrayer Xでは「原作をしっかり読んで詞曲を書いた」と語っていた常田が、2023年のSPECIALZ以降は明確に「距離感」を意識するようになっている。作品に寄り添うのではなく、作品と自分たちの音楽との間に適切な距離を保つ。その距離こそが、両者を生かすのだという確信に至っている。
並走する二つの剛速球
2026年の「AIZO」で、この思想はさらに研ぎ澄まされる。
rockinonのインタビュー( https://rockinon.com/interview/detail/214183 )で、常田はアニメとの関係をこう表現した。
自分たちにとって必要な曲が、『呪術廻戦』にはありがたいことに自然と親和性がある。並走してる感覚に近いです。だから、『呪術廻戦』に捧げようという意識より、自分たちの剛速球が結果として『呪術廻戦』と並走してくれるんじゃないかって。その強さが向こうにもありますし、お互いどっしりとしてる感じがします
捧げるのではなく、並走する。この言葉は、King Gnuのアニメタイアップの本質を完璧に言い当てている。
AKB0048ではない。King Gnuは呪術廻戦の世界に入り込もうとはしない。かといって、90年代のタイアップのように作品とは無関係にJ-POPを「乗せる」のでもない。バンドはバンドの剛速球を投げ、作品は作品の剛速球を投げる。二つの剛速球が並走したとき、どちらか一方では生まれなかった化学反応が起きる。
「AIZO」はその到達点だ。Mikikiの分析記事( https://mikiki.tokyo.jp/articles/-/44050 )が指摘するように、冒頭でいきなり笙が鳴り、BPM 195のドラムンベースが叩きつけられる。雅楽とミクスチャーロック。作品に寄り添った結果ではなく、King Gnuが全力で投げた剛速球が、死滅回游の狂騒とぶつかり合って火花を散らしている。常田自身も「King Gnuの王道を新たに更新した楽曲に仕上がったと一同自負しております」とコメントしている(ソニーミュージック公式 https://www.sonymusic.co.jp/artist/kinggnu/info/579847 )。
ただし、この「並走」が成立するには条件がある。King Gnuの楽曲はおしゃれで、独特で、格好良い。一曲一曲が強固な世界観を持っていて、作品性が極めて高い。それゆえに、相手となるIPにも同等の強度が求められる。音楽の側にこれだけの世界観があると、作品の側が弱ければバランスが崩れてしまう。逆に言えば、BANANA FISH、呪術廻戦、名探偵コナンというKing Gnuのタイアップ相手を見れば、すべてが圧倒的な作品力を持つIPだ。King Gnuの音楽と渡り合えるだけの物語の厚みがあるからこそ、相乗効果が生まれる。並走とは、双方が全力で走れる者同士でなければ成り立たないのだ。
アニソンの「第三の道」
第1回で私は、90年代のタイアップ時代について書いた。ビーイング系をはじめとするレコード会社のビジネス戦略として、J-POPがアニメに流れ込んだ時代。それは功罪ともにあったが、結果としてアニソンの質を押し上げた。
King Gnuがやっていることは、あの時代の先にある「第三の道」だと私は思う。
第一の道は、専業アニソンの時代。作品のために書かれ、作品とともに消費される音楽。第二の道は、90年代タイアップの時代。J-POPがアニメに乗っかり、作品との関係は希薄だが、音楽の質がアニソン全体を底上げした。そして第三の道——King Gnuが示しているのは、アーティストと作品が対等な力で並走し、互いの剛速球が衝突することで新しい何かが生まれるという関係性だ。
新井和輝はrockinonのインタビューでこうも語っている。「スラムダンクとかもそうだけど、あの当時のアニソンってアニメの内容をそのまま歌っているわけではないじゃん」。90年代のタイアップと今の自分たちを重ねつつ、しかし決定的に違うのは、King Gnuにはアニメと並走しているという自覚がある。ビーイング系にはなかった自覚だ。
Prayer Xで原作を読み込み作品に寄り添った青年が、8年をかけて「並走」という美学にたどり着いた。作品に捧げるのでもなく、作品を利用するのでもなく、自分たちの剛速球を全力で投げ、作品の剛速球と交差する瞬間を信じる。それがKing Gnuとアニメの関係であり、2020年代のアニソンが獲得した新しい地平だ。
引用・参考
・常田大希 Prayer X 配信開始ポスト(X): https://x.com/DaikiTsuneta/status/1027866422238572546
・Prayer X 楽曲情報(Wikipedia): https://ja.wikipedia.org/wiki/Prayer_X
・常田大希 TWILIGHT!!! インタビュー(Billboard JAPAN): https://www.billboard-japan.com/special/detail/4824
・King Gnu AIZO メンバー全員インタビュー(rockinon.com): https://rockinon.com/interview/detail/214183
・AIZO 楽曲分析(Mikiki / TOWER RECORDS): https://mikiki.tokyo.jp/articles/-/44050
・AIZO リリース情報(ソニーミュージック King Gnu公式): https://www.sonymusic.co.jp/artist/kinggnu/info/579847