コラム

Beyond the Anisong vol.13 ── UNISON SQUARE GARDEN——ロックバンドが恋を鳴らすまで

Beyond the Anisong vol.13 ── UNISON SQUARE GARDEN——ロックバンドが恋を鳴らすまで
TVアニメ『うるわしの宵の月』のオープニングが流れた瞬間、少し驚いた。UNISON SQUARE GARDENだ。間違いない。斎藤宏介の声、田淵智也のベースライン、鈴木貴雄のドラム。だが、そこに鳴っているのは、かつて『TIGER & BUNNY』や『血界戦線』で聴いた疾走感とは明らかに違う何かだった。

『うるわしの宵の月』は、やまもり三香の少女漫画が原作のラブストーリーだ。「王子」と呼ばれる女子高生・滝口宵と、同じく「王子」と呼ばれる先輩男子・市村琥珀の不器用な恋が描かれる。UNISON SQUARE GARDENはこの作品のためにオープニング主題歌「うるわし」とエンディング主題歌「アザレアの風」の2曲を書き下ろした。OP・ED両方を一つのバンドが手がけるのは、それだけ作品との結びつきが深い証拠だろう。

そして私が何より感心したのは、劇中で「うるわし」のインストゥルメンタルが主人公たちのデートシーンのBGMとして使われていたことだ。OP主題歌がそのまま作品の「内側」に入り込み、物語の空気を支えている。ロックバンドの楽曲が少女漫画の恋の温度にぴたりと寄り添っていた。

TIGER & BUNNYから血界戦線へ──タイアップの軌跡



UNISON SQUARE GARDENのアニメタイアップの歴史は長い。

最初の大きな転機は2011年、『TIGER & BUNNY』のOP主題歌「オリオンをなぞる」だ。バトルアニメの映像と疾走感あふれるロックナンバーが噛み合い、バンドの知名度を一気に押し上げた。続いて2015年、『血界戦線』のED主題歌「シュガーソングとビターステップ」が国民的ヒットとなる。NHK「ニッポンアニメ100」のベストアニソンにも選出され、バンドを広く認知させた代表曲となった。

ただ、この時期のタイアップ曲は、言い方を選ばなければ「ユニゾンらしさがそのままハマった」結果でもあった。疾走するロックとバトルアニメの相性は元々良い。曲の力は本物だが、それは作品に「寄り添った」というよりも、バンドの持ち味と作品の方向性がたまたま一致した幸運な出会いに近い。

風向きが変わったのは、夜桜四重奏から血界戦線にかけてだと私は思う。夜桜四重奏ではOVA(2011年)からTV版(2013年)にかけて複数曲を提供し、作品の世界観を歌詞に織り込む手法が明確になった。血界戦線のエンディング映像では、本編のシリアスなムードを受けつつも「非日常の中の日常」をポップに描き出す、作品との絶妙な距離感が生まれていた。

そこから先のタイアップの幅がすごい。『ボールルームへようこそ』(2017年)ではOP主題歌を第1クール・第2クールの両方で担当。『3月のライオン』第2シリーズ(2018年)では将棋の世界に「春が来てぼくら」という柔らかな曲を書いた。『風が強く吹いている』(2018年)は駅伝アニメ、『Fate/Grand Order -絶対魔獣戦線バビロニア-』(2019年)は壮大なファンタジー、『ブルーロック』(2022年〜)ではOP主題歌だけで3曲を書き下ろしている。TIGER & BUNNYの続編(2022年)にも戻ってきた。Anisongs.jpのデータと合わせると、10以上のアニメ作品に20曲以上を提供している計算になる。

注目すべきは、作品のジャンルが回を重ねるごとに広がっていることだ。バトル、スポーツ、日常、ファンタジー、推理もの。そのたびにUNISON SQUARE GARDENは、作品が必要としている音を探り当てている。

「うるわし」が特別な理由



「うるわし」がなぜ特別なのか。それは、この曲がUNISON SQUARE GARDENにとって最も「自分たちの音楽性から遠い場所」に届いた楽曲だからだ。

バンドのベーシストであり、ほぼ全曲の作詞作曲を担う田淵智也は、このタイアップについてアニメ公式サイト( https://uruwashi-anime.com/ )でこう語っている。「津野米咲という友達に教えてもらってやまもり先生の作品に出会い、どの作品にも感動しすぎて勝手にこっそり曲を作っていた」。津野米咲は赤い公園のギタリストであり、田淵にとって大切な音楽仲間だ。その友人を通じてやまもり三香の漫画に出会い、オファーが来る前から楽曲を書いていたという。田淵はやまもり三香と単行本1巻発売時(デザート2021年2月号)に対談もしており、長年の関係性がこのタイアップの土台にある。

そのうえで田淵は、こうも言っている。「やまもり先生のこの美しすぎる世界にロックバンドの声と音は果たして合うのだろうか?」。真剣に悩んだ末に見えてきたのが、「ロックバンドだから持っている隠せないエッヂ感」と「ボーカル斎藤宏介が可能にするこの作品と親和性のある色気」だったという。

田淵は「色気」と表現したが、私が「うるわし」を聴いて感じたのは、もう少し違うものだった。確かに斎藤宏介のボーカルは独特の声質を持っている。だがこの曲の核心は、サビ前のリズム隊の展開にある。鈴木貴雄のドラムと田淵のベースが作り出すグルーヴが、恋の高揚感——胸が詰まるあの瞬間の煌めきを、見事に鳴らしている。スキャットが入り、ジャズの語彙が顔を覗かせる。ただのロックバンドにはこの曲は書けない。UNISON SQUARE GARDENが15年以上かけて蓄えてきた音楽的な引き出しの広さが、ラブストーリーという未知の領域で一気に花開いたのだ。

「適応」という進化



第11回で書いたKing Gnuの「並走」は、自分たちの世界観が強いがゆえに作品と距離を保つ姿勢だった。第12回のVaundyの「包む」は、作品の内側に入り込んで音楽で覆うアプローチだった。

UNISON SQUARE GARDENはそのどちらとも違う。彼らは一貫して「UNISON SQUARE GARDENの曲」を書き続けている。並走のように距離を取るわけでもなく、包むように自分を作品に溶かすわけでもない。ロックバンドとしてのアイデンティティを保ったまま、作品ごとに自分たちの引き出しを開けてみせる。バトルアニメには疾走感を。スポーツアニメには推進力を。将棋のアニメには春の手触りを。そしてラブストーリーには、恋の煌めきを。

それは「適応」と呼ぶのが最も近いかもしれない。環境が変わっても自分自身は変わらない、けれど環境に応じて出力を変えることができる。生物学で言う適応とは、種が淘汰を生き延びるための変化のことだ。UNISON SQUARE GARDENのアニソンは、まさにそうして生き延び、進化してきた。

「うるわし」を聴きながら、私はそんなことを考えていた。ロックバンドが少女漫画の恋を鳴らすまでに、15年という時間が必要だったのだ。その時間こそが、このバンドのアニソンの最大の武器なのだと思う。

引用・参考



- TVアニメ『うるわしの宵の月』公式サイト 田淵智也コメント: https://uruwashi-anime.com/
- UNISON SQUARE GARDEN OP/ED主題歌担当発表(Sony Music Artists): https://www.sma.co.jp/s/sma/news/detail/112101
- 「うるわし」先行配信ニュース(Billboard JAPAN): https://www.billboard-japan.com/d_news/detail/157344
- やまもり三香×田淵智也 対談(デザート2021年2月号、講談社)
- UNISON SQUARE GARDEN 結成20周年記念インタビュー(音楽ナタリー): https://natalie.mu/music/pp/unisonsquaregarden19
- UNISON SQUARE GARDEN タイアップ一覧(Anisongs.jp)
フジキシンノスケ
著者 フジキシンノスケ

1980年代のアニメの音楽から感銘を受けてアニソンを聞いて育った黄金世代。音楽の変遷とアニメの変遷をダイレクトに受けつつ、思春期でバンドを組んでみたりした。アニソンはダサいと言われた時代。自分だけはかっこいいと思っていたから世間とのギャップに悩んだりもした。カウボーイビバップの菅野よう子とシートベルツに衝撃を受け、劇伴楽曲の世界に傾倒。幅広いアニソンを好む。