コラム

Beyond the Anisong 第3回「ガンズ・アンド・ローゼズがガンダムを選んだ日——アニメという世界のプラットフォーム」

Beyond the Anisong 第3回「ガンズ・アンド・ローゼズがガンダムを選んだ日——アニメという世界のプラットフォーム」
2026年1月30日。映画『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ キルケーの魔女』が幕を開ける。スクリーンに映し出されたオープニングに流れてきたのは、SZAの「Snooze」だった。グラミー賞を受賞し、アルバム『SOS』がR&B/Hip-Hopアルバム史上最長1位を記録した、現行のR&Bシーンを代表するアーティスト。彼女の繊細なボーカルが、ガンダムの物語を包み込んでいる。

そして上映が終わり、エンドロールが始まると、今度はスラッシュの象徴的なギターリフが劇場に鳴り響いた。ガンズ・アンド・ローゼズの「スウィート・チャイルド・オブ・マイン」——1988年に全米1位を獲得し、YouTubeでのMV再生回数が21億回を超える、ロック史に刻まれた名曲だ。

OPにSZA、EDにガンズ・アンド・ローゼズ。ひとつのアニメ映画に、アメリカの音楽シーンの現在と伝説が同居している。この瞬間、私はある確信を得た。アニメの音楽は、もう「アニソン」という枠では語れない時代に入ったのだ。

「可能性はないと思っていた」——村瀬修功監督の言葉



驚くべきは、この起用が制作サイドにとっても「賭け」だったということだ。

村瀬修功監督はFebriのインタビュー(https://febri.jp/topics/gundam_hathaway_chap2_3_2/ )で、ガンズの楽曲について構想時点から使いたかったと明かしつつ、「可能性はないと思っていた。でも、本当になるとは……」と率直に語っている。SZAについても「エンディングよりも許諾が難しいのでは」と考えていたという。彼女のイメージとガンダムのイメージが重なるかどうか——そこに不安があったのだ。

しかし結果として、両方の許諾が実現した。これが意味するところは大きい。SZAもガンズ・アンド・ローゼズも、日本のアニメ映画に楽曲を提供することに価値を見出したということだ。SZAはマーベル映画『ブラックパンサー』でケンドリック・ラマーと共演し、アカデミー賞にもノミネートされたアーティストだ。彼女にとって映像作品への楽曲提供は、ハリウッドの文脈で行うものだった。それが今、日本のアニメという文脈でも成立している。

ハリウッドが持っていたもの、アニメが手に入れたもの



かつて、世界的なアーティストの楽曲が映像作品の主題歌になるといえば、それはハリウッド映画のOST(オリジナル・サウンドトラック)を意味した。エアロスミスが『アルマゲドン』で歌い、セリーヌ・ディオンが『タイタニック』で歌い、アデルが『007 スカイフォール』で歌った。ハリウッド映画のOSTは、世界中の映画館で同時に流れることで、楽曲のグローバルなプロモーション装置として機能してきた。

今、その役割を担い始めているのがアニメだ。

『閃光のハサウェイ キルケーの魔女』は、公開わずか3日で興行収入8.5億円を記録し、その後も快進撃を続けている。だが重要なのは国内の数字だけではない。ガンダムというIPは世界80以上の国と地域に展開されており、前作はNetflixを通じて海外配信された実績がある。本作も同様の展開が期待されるだろう。ガンズ・アンド・ローゼズの楽曲は、日本の劇場だけでなく、世界中のアニメファンの耳に届く。

面白いのは、ガンズが映画公開後にオーストラリアのアデレードでのライブを発表したことだ。アデレードは本作の物語の中核をなす都市で、作中では地球連邦の中央閣僚会議が開催される場所だ。SNS上ではガンダムファンが「マフティーが襲撃してこないか心配」と盛り上がった。アニメとリアルが接続した瞬間だった。偶然かもしれない。だが、アニメに起用されることが世界的なアーティストにとって「メリットのある選択」になっているという事実は、偶然ではない。

「エンタメのプラットフォーム」としてのアニメ



第1回で90年代の日本のレコード会社によるアニメタイアップの構造を、第2回でK-POPの長期的市場開拓を書いた。この第3回で取り上げる洋楽ビッグネームの参入は、その延長線上にありながら、次元の異なる話でもある。

K-POPのアニメ進出が「韓国のエンタメ産業による市場開拓」だとすれば、ガンズ・アンド・ローゼズのような洋楽レジェンドの起用は、「アニメが世界的なエンタメのプラットフォームとして認知された」ことの証だ。

考えてみれば、これは必然的な流れだったのかもしれない。アニメの配信プラットフォーム(Crunchyroll、Netflix、Disney+など)が世界中に浸透したことで、アニメは「日本のサブカルチャー」から「グローバルなエンタメインフラ」に変貌した。世界中のリスナーにリーチしたいアーティストにとって、アニメは映画に匹敵する——あるいはそれ以上に有効な——プロモーションチャンネルになりつつある。

Creepy Nutsの「Bling-Bang-Bang-Born」がアニメ『マッシュル』を通じて世界的バイラルヒットになったのを、世界のミュージシャンたちは見ている。『怪獣8号』Season 2ではノルウェー出身のシンガーAURORAがOPを担当した。もはや日本のアーティストだけのフィールドではない。

アニメのOSTが「世界のサウンドトラック」になる日



ハリウッド映画のOSTが世界的な市場をターゲットにしてきたように、これからはアニメのOSTも同じ地平で勝負することになる。そうなったとき、アニメの音楽を取り巻く環境は激変する。

世界中の才能が、アニメという90秒のフォーマットに参入してくる。それはアニソンの「日本らしさ」を脅かすかもしれない。だが同時に、かつてない多様性と質の競争をもたらす可能性もある。

90年代のアニメタイアップが結果としてアニソンの質を飛躍的に引き上げたことを、私たちは知っている。K-POPの参入がアニソンに新しい刺激を与えていることも、前回書いた通りだ。そして今、洋楽のビッグネームがアニメに楽曲を提供する時代が始まった。

SZAの繊細なR&Bがガンダムのオープニングに流れ、ガンズ・アンド・ローゼズのギターリフがエンドロールに鳴り響く。それは奇妙な光景かもしれない。だが、Beyond the Anisong——アニソンの向こう側には、世界中の才能が集まる、途方もなく広い音楽の地平が広がっている。

アニメ音楽の世界に、世界中の才能が集まる時代が始まったのだ。

次回は、その最前線にいる一人の監督について書きたい。渡辺信一郎——『カウボーイビバップ』で音楽とアニメの融合を体現した男が、最新作『LAZARUS ラザロ』で集めたミュージシャンたちの顔ぶれを見れば、アニメ音楽の未来がどこに向かっているか、はっきりと見えてくる。
フジキシンノスケ
著者 フジキシンノスケ

1980年代のアニメの音楽から感銘を受けてアニソンを聞いて育った黄金世代。音楽の変遷とアニメの変遷をダイレクトに受けつつ、思春期でバンドを組んでみたりした。アニソンはダサいと言われた時代。自分だけはかっこいいと思っていたから世間とのギャップに悩んだりもした。カウボーイビバップの菅野よう子とシートベルツに衝撃を受け、劇伴楽曲の世界に傾倒。幅広いアニソンを好む。