コラム

Beyond the Anisong vol.9 ── BEYOND THE TIME——時を越える旋律

Beyond the Anisong vol.9 ── BEYOND THE TIME——時を越える旋律
アニソンには一つの原則がある。曲は作品に従属する、ということだ。

どれほど名曲であっても、それはある特定の作品のために書かれ、その作品とともに記憶され、その作品の文脈の中で聴かれる。「残酷な天使のテーゼ」はエヴァンゲリオンの曲であり、「紅蓮華」は鬼滅の刃の曲だ。別の作品で流れることはない。アニソンとは、作品を跨がない音楽なのだ。

ただ一曲だけ、その原則を破り続けている曲がある。

TM NETWORKの「BEYOND THE TIME (メビウスの宇宙を越えて)」。1988年、映画『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』の主題歌として生まれたこの曲は、37年が経った今もなお、新しい作品の中で鳴り続けている。

富野由悠季と小室哲哉の1時間



1987年。バンダイからガンダム新作映画の主題歌制作のオファーを受けた小室哲哉は、監督の富野由悠季と向き合った。Wikipediaの楽曲記事( https://ja.wikipedia.org/wiki/BEYOND_THE_TIME_(%E3%83%A1%E3%83%93%E3%82%A6%E3%82%B9%E3%81%AE%E5%AE%87%E5%AE%99%E3%82%92%E8%B6%8A%E3%81%88%E3%81%A6) )によれば、二人は少なくとも1時間、「機動戦士ガンダムとは何か」について語り合った。富野監督は映画本編の絵コンテと、自らが書いたコンセプトの叩き台となる歌詞を小室哲哉に見せ、イメージを共有したという。

小室哲哉はボーカルの宇都宮隆に対し、キーを下げ気味にして声色の雰囲気を変えるよう指示した。切なげなギターのイントロから始まり、シーケンスとストリングスが宇宙を描く。作詞は小室みつ子。シングルはオリコン最高4位を記録し、第30回日本レコード大賞では金賞にノミネートされた。

ここで注目したいのは、小室哲哉が単にタイアップとして曲を納品したのではないということだ。富野監督と1時間語り合い、絵コンテを見せてもらい、物語の核に触れた上で曲を書いている。だからこの曲には、逆襲のシャアという作品の感情——アムロとシャアの宿命、終わらない対話、メビウスの環のように繰り返される争いと祈り——が旋律そのものに刻まれている。BGMではなく、物語の感情が音楽になったのだ。

37年間、鳴り止まない曲



普通のアニソンなら、ここで物語は終わる。作品が公開され、曲がヒットし、やがて記憶の中に収まっていく。だがBEYOND THE TIMEはそうならなかった。

この曲は、逆襲のシャアがゲーム化されるたびにBGMとして採用され続けた。スーパーロボット大戦シリーズ、ガンダム無双シリーズ。2018年、NHKの「全ガンダム大投票」では楽曲部門で第4位に入った。30年前の曲が、現役の人気曲として投票されている。

そして2024年、TM NETWORKのデビュー40周年を記念するトリビュートアルバム『TM NETWORK TRIBUTE ALBUM -40th CELEBRATION-』( https://www.sonymusic.co.jp/artist/SennaRin/info/562187 )がリリースされた。参加アーティストにはCAPSULE、くるり、西川貴教、乃木坂46といった名前が並ぶ。その中で「BEYOND THE TIME」のカバーを担当したのが、澤野弘之 feat. SennaRinだった。

澤野弘之。進撃の巨人、機動戦士ガンダムUC、86、そして閃光のハサウェイの劇伴を手がけた作曲家だ。SennaRinは澤野がプロデュースするボーカリスト。閃光のハサウェイの挿入歌「ENDROLL」(川上洋平とのデュエット、澤野弘之作曲)を歌った人でもある。

小室哲哉が1988年に書いた旋律を、2024年に澤野弘之が再解釈し、SennaRinの声に託した。しかもこのカバーは、2026年2月に発売されたSennaRinのEP『LOSTandFOUND』( https://www.sawanohiroyuki.com/post/機動戦士ガンダム-閃光のハサウェイ-キルケーの魔女-concept-ep-sennarin%E3%80%8Clostandfound%E3%80%8Dtrailer公開%EF%BC%81 )にボーナストラックとして再収録された。閃光のハサウェイの挿入歌「CIRCE」や「ENDROLL」と並んで、BEYOND THE TIMEが同じアルバムに収まっている。

逆襲のシャアの続きを描いた物語のための音楽の中に、逆襲のシャアの主題歌が帰ってきた。曲が作品を跨いだのではない。作品世界の時間軸に沿って、旋律が「成長」したのだ。

ジークアクスの夜、Xが沸騰した



2025年6月。TVアニメ『機動戦士Gundam GQuuuuuuX(ジークアクス)』第11話、劇中でイントロが流れた瞬間、衝撃に包まれた。事前告知は一切なし。完全なサプライズだった。

放送直後、Xのタイムラインは沸騰した。音楽ナタリー( https://natalie.mu/music/news/628470 )が即座に報じたように、37年前の旋律が2025年の新作アニメで突然流れた瞬間、視聴者の感情が爆発したのだ。当時リアルタイムで聴いた世代も、後から作品に触れた世代も、あの旋律を「知っている」。イントロの数秒で、逆襲のシャアの記憶が、ガンダムという物語全体への感情が、一気に蘇る。

翌日、ソニーミュージック公式( https://www.sonymusic.co.jp/artist/TMNetwork/info/574786 )は「BEYOND THE TIME -2025 Version-」の配信開始を発表。それまでサントラ盤やベスト盤の収録曲としてのみ配信されていたこの曲が、サプライズ放送を機に初めて単曲配信された。THE FIRST TIMES( https://www.thefirsttimes.jp/news/0000640735/ )によれば、この配信はオリコン週間デジタルシングルランキングでTM NETWORK初の1位を獲得。さらにiTunes Storeでは旧バージョンまでもが1位に返り咲いた。

37年前の曲が、2025年のデジタルチャートの頂点に立った。私はこうした事象を受けて、コンテンツの「消費耐久性が高い」と表現している。BEYOND THE TIMEは何度聴いても減らない。何十年経っても摩耗しない。むしろ時を経るほどに、この曲が背負う物語の厚みが増し、聴くたびに新しい感情が重なっていく。それは単に「名曲だから」では説明がつかない。

魂に刻まれた旋律



なぜBEYOND THE TIMEだけが、時を越え続けるのか。

私は、この曲が「作品のテーマソング」ではなく「感情のテーマソング」だからだと思っている。この曲が描いているのは、逆襲のシャアという個別の物語ではなく、人と人が分かり合えないまま、それでも手を伸ばし続けるという普遍的な感情だ。だからガンダムという物語が続く限り、その感情が必要とされる場面が必ず訪れる。そのたびにこの曲は呼び戻される。

小室哲哉がGet Wildで「J-POPとアニメの交差」を実現したことは第1回で書いた。だがBEYOND THE TIMEで小室哲哉が成し遂げたのは、それよりもさらに深いことだった。作品に寄り添うのではなく、作品の感情そのものを旋律に変換した。だから作品が終わっても旋律は終わらない。物語が続けば、旋律も続く。

1988年、小室哲哉と富野由悠季が1時間語り合って生まれた旋律。2024年、澤野弘之がSennaRinの声でその旋律を再解釈した。2026年、「LOSTandFOUND」の中で「ENDROLL」と隣り合っている。時を越える旋律は、才能のリレーでもあった。

やはり小室哲哉は天才だと、改めて思う。
フジキシンノスケ
著者 フジキシンノスケ

80年代アニソン黄金世代。菅野よう子『カウボーイビバップ』で音楽と映像についての関係性に目覚め、以来アニメ音楽を追い続けている。